美しい人

湿って欝陶しい梅雨空の下、駅まで行く小路でふと、前を歩く一人の女性に目を引かれた。


すらりと背が高く、モデルのようにスタイルがいい。髪はうしろできれいにまとめられ、のぞいた白い首筋が涼しげだ。パフスリーブのシャツに細身のパンツという格好はこぎれいで気取りがない。
だけど、私を最も惹きつけたのはその外見ではなく、彼女のたたずまいの美しさだった。力を入れすぎるでも抜きすぎるでもなく、すっと自然に伸びた姿勢。そのよどみのなさは雨上がりの空の清涼さを思わせる。


驚くべきことに、その人は小学校中学年くらいの女の子を連れて歩いていた。おそらく、30は過ぎているだろう。なんとなく、あの雰囲気は20代の女には出せないもののように思えた。


街を歩けばかわいい女の子というのはたくさんいるけれど、美しい女性というのはなかなかいない。彼女には「楚々とした」という表現がぴったりで、現代ではほぼイメージの世界の住人となっている奥ゆかしい日本の女性の美しさを体現していた。


少し早足で歩いていた私は追い抜きざま、顔が見てみたいとちらりと横を向いたが、反対側にいる女の子と話していたため顔はよく見えなかった。代わりに、話し声が少し聞こえてきた。その人は、少し高めのやさしい声音で話していた。自分の子供(たぶん)に対して、こんな風に話す人を私は今までに一度も見たことがない。


しかし今ここまで書いてみて、ほんの一瞬見ただけでこんなにもあれこれ考えてしまう自分はちょっと変態じゃないかと思った。だって、この人のようになりたいなんて気持ちはまったくおこらなかったんだ。同性なのに。これじゃほとんど異性に対する憧れだ( ̄∀ ̄;)